私を赤く染めるのは
「ああん?」
そう睨みつけたナンパ男は相手の顔を確認するや否や負けを悟ったのか「ふんっ」と捨て台詞を吐いてその場を立ち去る。
さっきまでの強固な姿勢はどこへやら。
「ありがとう、碧人くん」
「こんなところでもナンパされんだな」
偶然、通りかかったであろう碧人くんは傘を畳むと私の隣に肩を並べた。
「松村は買い物か何か?」
“松村”か。ここは学校から離れた場所なのに徹底してるんだなぁ。
「うん、碧人くんは?」
まぁ、私には碧人くんの線引きなんて関係ないけど。
「今からスーパー行く予定」
そう言った碧人くんはパンツにTシャツ、スニーカーとラフな格好をしている。
「そういえば碧人くんの家ってこの辺だったよね?雨宿りさせてよ」
「生徒を家に入れるかよ。それに、まだ電車動いてるだろ?駅まで送ってく」
バサッと音を立ててビニール傘が開かれる。
これは入れってことだよね?
「生徒って昔なじみじゃん」
そう文句をこぼしながらも私は碧人くんの隣に並んだ。
駅までの道を歩くにつれどんどん強くなる雨と雷の音。
「大丈夫かな、結月」
その様子に思わず結月の顔が浮かんだ。
昔、近所に雷が落ちた経験がある結月はその音だけで真っ青になるぐらいのトラウマを持っている。
駅に着いたら電話してみようかな。
「今日は紫月いるんだろ?」
「さあ?なんか紫月くん他のメンバーも担当してて、数日前から忙しいらしいよ」
私がそう言うと碧人くんは突然歩みを止めた。