私を赤く染めるのは
「朱莉ちゃんどっか行くの?」
途中、廊下ですれ違った舞が不思議そう聞いてくる。
私は足を止めることなく「早退する!」そう叫んでいた。
ああ、らしくない。
走ると汗はかくし、せっかくセットした髪が乱れる。
本来、私は体育の授業でさえ走りたくない女なのに。
昔、一度だけ遊びに行った記憶を頼りに何とか碧人くんのマンションへと辿り着いた。
確か10階。
一つ一つ表札を確認して回ると5軒目で橘と書いてある表札を見つけた。
ここで間違いない……はず。
勢いで飛び出したものの、ここまで来て本当に良かったのだろうか?
これこそ先に連絡するべきだったんじゃ…… 。
でも、碧人くんのことだ。
事前に連絡なんかしたら絶対来るなと返事を返してきに違いない。
さっきまでの勢いは消えたものの、ここで引き返すわけにはいかない。
意を決してインターホンに指を伸ばす。
ピンポーンと音がして数十秒後、扉の向こうから「朱莉ちゃん?」そう驚く声が聞こえた。
ドアはゆっくりと開かれる。
「……朱莉ちゃん。なんで」
……拒否られはしなかった?
「お邪魔しまーす」
碧人くんが呆気にとられてるうちに玄関へと足を踏み入れる。