私を赤く染めるのは


私は別れまでのタイムリミットがほんの数分でも延びたことに安堵した。


まさか、煌があの日のことを切り出すとは思いもせずに。

「何、知らないふりって?」


「俺が風邪ひいた日覚えてる?」

「もちろん、覚えてるよ」

「その次の日。俺の部屋に来て好きって言わなかったか?」

「……へっ?」

予想もしていなかった言葉に煌の腕を掴んでいた右手はストンと力が抜ける。


あの日、思わずこぼれた言葉。
それを煌は聞いていたというのだ。


数日前に自覚した気持ちを本人に伝えるほどの勇気はまだない。


そもそも、告白すらするつもりはなかった。

なんせ相手は芸能人、私とは立場が違う。

「あれは、」

言葉をつまらせる私に今度は「結月、お前俺のことが好きなのか?」と核心に迫る言葉が飛んできた。

ただ一言、「違うよ」と誤魔化せばいい。

それで「なんだ」と笑う煌に初めて会った日ように「自意識過剰じゃない……?」と言えばいい。


そうすれば、楽しい思い出のまま別れられる。

頭ではそうわかっているのに、口から零れ出たのは正反対の言葉だった。


「うん。私……煌のことが好き」


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