私を赤く染めるのは
「ごちそうさまでした」
碧人くんがうちに来てから数時間。
ついにデザートも食べ終えた。
もう後はない、今言うんだ。
お昼に何度もシュミレーションした言葉を一から頭に思い浮かべる。
まずは返事を待っててくれてありがとうって伝えて、それから自分の気持ちを話す……!
テーブルの下、碧人くんの位置からは見えないところでギュッと拳を握る。
「あ、あのね……碧人くん」
私がそう口にした時、スマホの画面がパッと光った。
ディスプレイにはお兄ちゃんからの着信を示す表示。
「あ、お兄ちゃんからだ」
お、お兄ちゃん〜!今、すごく大事なところだったんだよ。
碧人くんに「ごめんね」と告げて電話に出ると、お兄ちゃんが慌てた様子で話し始めた。
『あ、もしもしゆづ?』
「何?」
『あのさー俺の部屋に黄色いファイルなかった?今日必要な契約書が入ってるんだけど、鞄の中探しても見当たらなくて』
「契約書?ちょっと待ってね」
お兄ちゃんの部屋に入ると黄色いファイルが机の上にぽつんと置いてあった。
こんな目立つものどうやったら忘れるんだろう。
「あったよ」
『じゃあ、取りに行くわ。家の近くにいるから10分後には着くと思う』
「はいはい、了解」
電話を切り、契約書の入った黄色いファイルを持ってリビングへと戻る。