私を赤く染めるのは
「碧人くん聞いてよ〜。お兄ちゃんったら大事な契約書を家に置き忘れてたんだけど。今から取りに来るんだって」
「紫月らしいな」
果たして“らしくて”いいのだろうか、お兄ちゃん。
「もう遅いし、俺食器洗ったら帰るよ」
「私がやるから大丈夫だよ?」
「ゆづは夕食作ってくれたじゃん。片付けぐらい俺にやらせて。それに紫月が契約書取りに来るんだろ?」
碧人くんは立っていた私を近くの椅子へと座らせた。
結局、話は途中になっちゃったな。
でも、今はそういう雰囲気じゃないし……
続きはお兄ちゃんと会ったあとでいいか。
私は碧人くんの言葉に甘えて、リビングでお兄ちゃんの到着を待つことにした。
「お兄ちゃんまだかな……」
連絡がきていないかスマホをチェックしようとしたその時、インターホンが鳴った。
「あ、お兄ちゃんだ」
キッチンにいる碧人くんに渡してくるねと伝えファイル片手に廊下を走る。
そして、ドアを開けた時。
一瞬にして“あの頃”に引き戻された。
「久しぶり」
ドアを開けた先には、なぜかあの日出ていったはずの煌の姿。