私を赤く染めるのは


「ゆづ?」

玄関で長話を続ける私を不思議に思ったのか碧人くんがリビングから顔を覗かせる。

「あ、碧人くん」

「……っ、」

思いがけない対面に一瞬、言葉を失う煌と碧人くん。


「……どうも」

煌はそう言うと碧人くんに軽く会釈をした。


「ああ、こんばんは」

碧人くんも煌に挨拶を返す。

「じゃあ用も済んだし行くわ。これありがとう」

「う、うん」

煌は最後に碧人くんへと視線を送ったあと、背を向けてうちを出て行った。


閉まったドアを見つめること数十秒。

背後から床のきしむ音がして、碧人くんを待たせたままだったことに気がついた。


「あ、えっと、ごめんね碧人くん。煌がいてビックリしたよね。お兄ちゃんが電話中でだったから代わりに取りに来たんだって」

煌を目の前にして、心が揺れた。

それを碧人くんに知られたくなくて、何もなかったように笑う。


だけど、碧人くんがそれに気づかないはずがなかった。

「ゆづ」

名前を呼ばれて顔を上げると、碧人くんはいつもと変わらない優しい表情で私を見つめていた。



「あの時と同じ顔してる」

「え?」

「一瞬でかっさらっていくんだよな」

「な、何の話?」

「ゆづの中にはまだ煌がいるんだな。……あ、責めてるとかそういうのじゃないから。俺、本当に返事は待つつもりだから。1年でも2年でも」


どうして、そんなことを言うの?

私は今日、碧人くんに返事をするつもりで……。

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