私を赤く染めるのは


「こ、こんにちは」

思ったよりも元気そうな顔にホッと胸をなでおろす。

……って。ゆっくりしている暇はなかった。

ぼーっとつっ立つ私に差し出される手。

そうだこれ、握手会だった。


会話のことで頭が一杯で、肝心の手を握るという行為を忘れていたのだ。


今のところシュミレーションが何一つ活かされていない。



慌てて握った手を煌に強く握り返される。


それだけでパニックになりそうな中、私はあの言葉を思い出した。

“大切なことは一番はじめに言うこと”


もう残り時間は数秒だろう。

私が今一番伝えたいこと、それは……


「これからもずっと好き」

「え?」

「煌のこと信じてるし、何があっても味方だから」

そう言うと「お時間です」そう言って剥がしと呼ばれる人に出口へと誘導された。

「あ、」

煌が何かを口にする前に「次の方どうぞー」次の人が誘導される。


「好きって言いに来たんじゃないのにな」

それでも煌には知っていてほしかった。

あなたのことを好きな人はたくさんいるんだよということを。

「好き」という言葉はファンの多くが口にするだろうし、スタッフの人もただの熱狂的なファンの一人だと思っているだろう。


だけど、なんか思い返すと恥ずかしくなってきた。

急に会いに行って好きって何?

もっと気の利いた言葉があるでしょ。

……でも、不思議と後悔はなかった。



こうして、私の初握手会は赤面と同時に幕を閉じた。



< 143 / 165 >

この作品をシェア

pagetop