私を赤く染めるのは
それからは仕事が終わればホテルに直帰する毎日。
いつもは鈍感な紫月さんもあの日以来、俺の前では一切結月の話をしなくなった。
“ゆづ”の投稿は俺が出ていった日から止まったまま。
ハチの熱愛が報道されたときも更新されることはなかった。
そして、10月も終わりに近づいた頃。
「煌、ちょっとだけうち寄っていい?」
仕事へ向かう途中、紫月さんが慌てた様子で声を掛けてきた。
「うちって……」
「あ、あれだよ。契約書忘れて。煌は車の中で待っててくれたらいいから」
「……了解っす」
結月に会えるかも。そんなことを一瞬でも考えた俺が馬鹿だった。
気持ちには答えられない。そう言ったくせに、今更どの面下げて会いに行くんだよ。
マンションの駐車場に着くと、紫月さんはカードキーを手に持ち車を降りようとする。
その時、スマホから聴こえた着信が紫月さんの足を止めた。
「堺さんから電話だ」
堺さんというのは某テレビ局のプロデューサー。
俺達が最近お世話になっているとても偉い人だ。
「先、電話出るわ」
紫月さんがそう言った時、俺は何を思ったのか紫月さんが持っていたカードキーを手に取り「……じゃあ、俺が代わりに受け取ってくるよ。これ借りる」そう言い車から降りていた。
「え、ちょ、煌!?」
紫月さんの驚くような声には耳も貸さずただひたすら走った。