私を赤く染めるのは
「ああ、そうだな。お前結月ちゃんって呼ばれると嬉しそうだったもんな」
そう言うと一歩踏み出す煌。
そして、一歩引き下がる私。
するとまた煌がジリジリと距離を詰めてくる。
それを何度か続けていると、いつの間にか背中に壁があたり、もうこれ以上後ずさりはできないことを悟った。
そんなことはお構いなしと言わんばかりにまだ距離を縮めようとする煌。
「な、何」
「ハチ担のくせに顔赤くなってんじゃん」
「こ、これは不可抗力です」
だ、だってアイドルとか関係なしに普段男の人とこんな距離で話すことなんてないし。
行く当てに困らないほどのモテモテアイドル様とは違って、こっちは彼氏すらいたことがないのよ!
「……不可抗力ね。まぁ、そういうことにしといてやるよ」
よ、よかった。
どうにか逃げられた(?)
煌の言葉に安心しきった途端、今度は右手が温もりに包まれる。
「なっ、ちょ……」
私の焦る様子を楽しむかのように手を握った煌は、フッと笑うと薄くて形の良い唇を手の甲に押し当ててきた。
微かに聴こえたチュッというリップ音がなんだか生々しくて、顔が急激に熱くなる。
「じゃあ改めてファンサービス。……と家賃の前払い?」
煌はそう言うとベッと舌を出し、いたずらっ子のような表情で笑ってみせた。
「は、はぁ!?!?!?」
「んじゃまあ、明日からよろしく。ゆーづきちゃん」
私と違い涼し気な表情で部屋から出て行く煌。