私を赤く染めるのは


5分後、食器を洗い終えた私は煌の部屋へと向かった。

ドアは拳一つ分ほど空いていて、その隙間から声をかけると「入ってきて」と言われた。

「お、お邪魔します」

自分の家なのにお邪魔しますって変な感じ。

ゆっくりとドアを開けると、ベッドとクローゼットしかない煌の部屋は服やアクセなどの小物で溢れかえっていた。

「何してるの?」

「整理。引っ越す前にある程度、片付けておこうと思って」

そうか、もうすぐ煌は出て行ってこの部屋は空っぽになるんだ。

「それで餞別代わりになんかやろうと思って」

クローゼットから取り出した服を次々と並べながら煌が言う。


「餞別?」

「どれでもいいよ。好きなの選べば」

「何それ、なんか怖いんですけど」

アイドルの私物をはいそうですかーって貰える訳がない。

ましてや服やアクセはどれも高そうなブランドのものばかり。

最近の煌は優しすぎてちょっと変だ。


「別にいらないならいいけど」

「い、いらないとは言ってないでしょ」

いつもなら躊躇してしまうところだが、朱莉の“思い出”という言葉がふと脳裏に浮かんだ。


「じゃあ、好きなの選んで」


服や小物を全て出し終えた煌はベッドの空いた部分に腰を下ろす。


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