私を赤く染めるのは
思わず「どうして」そんな言葉が出た。
さっきまで感じていた恐怖は驚きへと変わり、違う意味で心臓が跳ねる。
なぜなら玄関に立っていたのはお兄ちゃんではなく、全身びしょ濡れで肩で息をする煌だったからだ。
「煌、仕事は?」
「今は次の仕事の合間。紫月さん抜けられそうにないから代わりに俺が来た」
「煌……ってちょっと待ってて」
さっきまで壁伝いに歩いていたとは思えないスピードで、私は洗面所にタオルを取りに行く。
「とりあえずこれで拭いて。今お湯溜めるから」
「風呂はいい。30分後には戻んなきゃいけねぇし、とりあえず着替えてくるわ」
そう言った煌を一人静かに廊下で待つ。
真っ暗なのは変わらないのに、そこに煌がいるだけで心が落ち着いていくのを感じる。
「マジで真っ暗だな」
「う、うん」
「お前震えてんじゃん」
煌は一言そう言うと私の手をそっと握った。
その手は雨に濡れて体温を奪われたせいか驚くほど冷たい。
「煌、手冷たいよ?風邪ひくんじゃ……」
「じゃあ結月が温めて」
それはいつもの冗談?それとも本気?
何と返したらいいのかわからず黙り込むと、煌は私の手を引いてリビングの方へ歩き出した。
そしてソファーの前に私を座らせる。
「煌?」