私を赤く染めるのは
暗闇の中、離された手に不安になると後ろからふわっと煌が付けている香水の匂いがした。
「これなら怖くない?」
その声は耳へと直接届き、煌がすぐ後ろにいることを教えてくれる。
ブランケットを持った煌は私を後ろから抱きしめるような形で座っていたのだ。
「こ、煌」
「これもファンサービスの一貫?あー温けぇ。結月は人間湯たんぽだな」
その言葉は震える私を安心させるため、そして私が何も気にしなくていいようにという気遣いを感じた。
背中からはひんやりと冷たい体温が伝わってくる。
尋常じゃないスピードで跳ねる心臓はドクドクと音を立て、後ろにいる煌に直接届いてしまいそうだ。
そんな音をかき消すかのような雨と雷の音に私は少しだけ感謝をした。
私はただの湯たんぽ、人間湯たんぽ。
そう呪文を唱えていると、部屋が突然パッと明るくなった。
あ、電気が復旧したんだ。
テレビはチャプター画面に戻り停止している。
「こんな時でもBijouかよ」
後ろからは呆れたような声が聞こえる。
「こんな時だからこそだよ。それよりも煌、戻らなくていいの?」
雷は鳴り続けているものの、電気は復旧し、私の気持ちもだいぶ落ち着いた。
この大雨ならタクシーを捕まえるのも大変だろうし、時間に余裕がある方がいいだろう。
「んー、もうちょっと温まってから行く」
そんな私の心配をよそに煌は全く動く気を見せない。