激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす
プロローグ
一生で一度、この人しかいないと燃え上がるように恋に落ちたような、夢だった。
現実はそんなに甘くないし、
どうしても忘れられない匂いと香りは、今も私の身体に残っている。
恋だけで生きていくには、若くない。
感情だけでは信じていけない。
だから、できれば二度と会いたくなかった。
再会を望んではいなかった。
「必ず会いに来ると伝えたが、君は覚えているか?」
苦しそうな顔で言われ、胸を締め付けられた。
けど、私は首を振る。
正解には、ずっとずっと忘れたかった。
はやく匂いさえも忘れたかった。
正直に言えば、覚えているけど夢であって欲しかった。
あの時の私は、正常な判断ができなかった。姉と恋人との裏切りの方こそ、夢であってほしかった。
ただ言い訳を並べてみても、目の前にいる彼にしてみれば一夜だけ弄ばれ、次の日には消えた相手なんだと思う私は。
てっきり一夜だけ夢を見せてくれたのだと、彼も楽しんでいるだけだと思っていた。
目の前の彼は、確かに素敵な人で私にとびっきりの夢と癒しと、前を向く希望をくれた人だけど、信用していいのか分からない。心から信用していた人間に、私は同時に二人も裏切られていたのだから。
だから、もうどんなに素敵な人と出会っても、どんなに胸を焦がしても、その先の裏切りが怖い。人を信用なんてできない。
「私は、あの日に全て忘れると言いました」
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