激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす

「なんで」

 彼が面白そうに笑うので、丸い窓を眺めながら大きくため息を吐く。

「ここには新婚旅行で来るはずだったの。会社にも友人にも結婚するって宣言してさ。でも今、私はここに一人。誰にも声をかけてほしくなかった理由、分かる?」
「馬鹿な男がいたってこと?」

 彼が私に座る様に促してくれて、長椅子に座った。今から深水約三十メートルまで潜るのに、隣にこんなナンパ男がいるなんて。
 顔もいいし身なりもいいし、紳士的で素敵な人かと思ったのに、こんな十人並みの私にまで声をかける節操無しだったなんてがっかりだわ。

「で、馬鹿な男がいたの?」

 私が返事をしなかったので、私の顔を覗き込んできた。

「馬鹿な女がいたの。貴方も私に本気になられたら迷惑でしょ。関わらないで」

 馬鹿な女なんだよ。

 姉にずっと振り回されて、逃げてやっと自分の幸せを掴めたと思っていたの。
 高級品がほしいわけでもない。
 胸を焦がすようなドラマチックな恋を夢見たわけじゃない。
 堅実的に生きて、姉とは真逆の人生を向かえば関わらず幸せになれると思ったのに。
 結局はめちゃくちゃにされた。

 もっと警戒していればよかった。姉がいない時に行けばよかった。
 外のレストランとかで親とだけ会えばよかった。
 姉を好きになるような人なんて、好きにならなければよかった。

「本気になってもいいけど。俺はそう思って君を探してた」
「うわあ。鳥肌立つかと思った」
 腕を摩ると、彼は拳を口に当てて笑う。貴方の言葉に鳥肌が立っているんだけど。
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