激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす

見もしないで捨てたのかな。直感で仕事を決めちゃう部分があるし、しかもその直感がほとんど外れない人だもんね。はやく香りを試したかっただけなので、そのままにして会社を飛び出し彼の実家の方へ向かう。

一緒に居ることが増えてから、ちょくちょくメンテナンスに実家に顔を出しているのであの屋敷は人が住んでいなくても壊さないのかもしれない。

彼の家も、あの実家も、どちらも出勤するにはいい場所にあるもんね。
うちの会社からも、駅で乗り継ぎがスムーズにいけば15分で着く。
モップはあの庭で走り回るので大好きそうだし。
年に数回、花壇の花を入れ替えるって言っていたから、常にお花が咲いている。

「これだ」

一階の使われていなさそうなゴミ箱。無造作に上から落としたような、見ても貰えなかった書類を取り出す。
作った人側からしたら、きついよなあとか思いながら鞄に入れた。
タイミングよく、彼からメッセージが届いた。

『駅ではなく松永が家まで迎えにいく』
『大丈夫ですよ。それぐらいの時間に行きますね』

呑気に変身し、屋敷に鍵をかけて外へ出た。
ああ、花の香りに包まれていい香り。
温室内もサボテンを育てるらしいけど、香りがいい花を私も勝手に置いてみようかな。
彼のおかげで好きなものが身近に増えた。彼の匂い、モップの肉球の匂い、欲しかった香水の香料、そして、彼の温もり。

ここでモップが寝転んだのを覚えている。ここで蝶を追いかけて、いつの間にか自分の尻尾を追いかけてくるくると回りだす。
ああ。今は幸せだ。
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