激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす

 ***

 花火が落ちてきそうな夜だった。


 パンフレットに書いていた通り、金曜日には花火が上がるらしい。
 数日前まで他人だった人とベッドに寝そべって、花火を眺めた。
 現実を忘れるぐらい熱い夜だったな。

「明日は観光する? 連れて行くよ」

 シーツの上に流れた私の髪を掴みながら、ご機嫌そう。
 動けないのか動かないのか分からない。

 けど、今この瞬間だけは幸せだと感じてしまう。
 それほど私は幸せではなかったってことだ。
 たった数日が、今までで一番幸せとか、私はどれだけ満たされていなかったんだって笑ってしまう。 
 弱った今、彼に溺れていく自分は止めなければいけない。
 彼に夢中になってまた傷つく未来は、惨めすぎる。

 一人で生きていける強い自分にならないと。

「今は何も考えたくないかな」

 彼に頭を撫でられながら目を閉じる。

 目が覚めたら、全て夢だといいのに。
「全て忘れて、一人で生きていきたいの」
「これが夢だと思ってる?」
「全て忘れる予定だから」
 彼に言われて頷くと、苦笑された。
「君が一人で我慢して辛いのは嫌だな」

 私の事なんて、全く知らないのに。たった数日、一緒にいただけなのに。

「頑なな君に、必ず会いに行くよ」

 彼は私が、つまらない思考に落ちないように、眠るまでずっと語り掛けてくれた。
 花火の鳴り響く夜、彼の匂いに満たされて深く眠ることができたのだった。
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