激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす
日本へ帰国するまであと四日。
それまでに沢山遊んで鬱憤を晴らして、心の整理をしなければいけない。
憂鬱だ。
全部の責任を優希に押し付けて、自分だけ楽になれたらいいのに。
あんなに好きだったのに、仕事ですれ違っても体の心配はしても、心は離れなかったのに。
今はすとんと全部落ちてしまった。
あの姉を選んでしまった時点で、私はもう優希を好きになることはできない。
姉を抱いた手で二度と触れてほしいと思わない。気持ちが悪い。
せっかく楽しいリゾート地で、腐りたくなくて私は何度も何度も首を大きく振った。
ホテル内のカフェで、パンフレットを見ながら気分を変えようとしていた時だった。
「すみませんっ」
イントネーションが若干おかしい日本語がカフェ内に響いた。
そちらに目を向けると、白いランチマットに赤い染みが飛び散っている。
ウエイターがランチを運ぼうとして、テーブルにひっくり返してしまったようだった。
「大丈夫ですよ」
にこやかに微笑んだ男性は、手前に置いてあったおしぼりに手を伸ばそうとしている。
「あっ」
「あ?」
つい叫んでしまって慌ててパンフレットに顔を埋めた。
恐る恐る顔を覗かせると、一つテーブルを空けて座っていた男性が、まだこちらを目を見開いてこちらを見ている。
この暑いハワイでスーツ姿で目立っている彼は、高級そうな時計にワインが飛び散っている。
今まで見たことがないほど顔が整っている。はっきりした顔立ちで、顔のパーツが全て美しい。切れ長の瞳も、高い鼻梁も意志の強そうに閉じた口さえも。
「えーっと、すみません。ワインの染みは、おしぼりで拭いたら駄目です。お絞りって塩素系の漂白剤使ってる場合があるので」
ちらりと彼のネクタイを見る。紺色のストライプのネクタイ。ワインで染みがついているので、おしぼりで拭いてしまうのかなって悲鳴をつい上げてしまったのだ。
「どこかで聞いたことがある台詞だ」
見ず知らずの私の台詞に、彼は屈託なく笑った。