白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい
「ふたばは高校から大学卒業までパリに住んでただろ?」
「……はい」
私が頷くと、琥白さんは私に向き合った。
「ふたばは結婚しても天橋不動産で仕事をすると言ってたけど、そうじゃなくて、結婚後は檀田トラストの仕事をしてみないか? ふたばには、俺や社員がパリに視察に行くときに同行して、通訳や案内をしてほしいんだ。フランス語が話せて、街の様子にも精通している人間なんてそんなに多くないからな」
その言葉に心底驚いた。同時に胸が痛んだ。
「……そ、そんなの無理ですよ」
「どうして?」
「だって私は……」
―――あなたと結婚できないのに。
そう思って口を噤んだ。
そして無理に笑顔を作ると、
「ほ、ほら、周りの人、絶対やりにくいですし」
と誤魔化すように笑った。
「周囲の人間の所感は今とそう変わらないだろ。それにどうしてもというなら身分を隠せばいい。パリまで行く社員は俺のいる都市開発部の人間くらいだし、それくらい簡単だ」
そんな結婚後の約束。
魅力的な誘いに心が動かないかと聞かれれば、少しは心が揺れ動かされているのも事実。
でも、私は琥白さんが用意するその夢のような世界にいられる人間じゃない。