白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい
そのとき、ふいに懐かしい香りが鼻を掠める。思わず足が止まった。
「ふたば!」
「ふたばさん! そっちはだめです!」
それから大きな声が聞こえて、左手が二つの大きな手に掴まれた。
気が付いたら、ビルの屋上の端っこ。そのまますごい力で引っ張られて、屋上まで引き戻されていた。
足をひねってその痛みに顔がゆがむ。
左手を引っ張った相手の顔を見ると、琥白さんと工藤さんが息を切らしてそこにいた。
「琥白さんに工藤さん……? お兄ちゃんが!」
「ふたば……」
「ふたばさん、あなたのお兄さんはもういません。2年前に亡くなったんです」
やけに冷静な工藤さんの声に、私の右手を見ると、そこに兄はいなかった。
ビルの屋上から下を見ても、誰もそこにはいなかった。