白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい

「仕事でトラブルがあってこちらに来たんです。ふたばさんがどこに泊まっておられるのか分からなかったので、以前泊まったとおっしゃっていたここのホテルを急遽リザーブして。でも、まさか本当にお会いできるとは……」

 琥白さんは心底楽しそうに笑うと、流暢なフランス語でカウンターの中にいるマスターにカクテルを注文した。

 私は言葉に詰まって、考えを整理するために、自分の目の前にあるワイングラスにゆっくり口をつける。ただお酒は殆ど口に含まなかった。

 それは今日ももう十分すぎるほど酔っているからというわけではない。琥白さんの登場で一気に酔いは醒めていた。
 今、琥白さんがいる以上、これ以上酔ってしまってはいけないからだ。

 琥白さんがここに現れたことは完璧に予想外の出来事。しかし、琥白さんが言うことは嘘ではなさそうだし、よく考えてみれば、琥白さんが仕事で東京を離れる可能性は十分あった。

 本当に今回は運が悪かったとしか言いようがない。
 ため息が漏れそうになるのをなんとか抑える。
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