白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい
6章:気付き
 昔の琥白さんは意地悪だった。

 琥白さんは昔の事なんて覚えていないだろうけど、当時、小学生だった私は兄とは全然違う琥白さんが苦手で、少し怖かった。
 いや、今だって苦手なんだけど。

(なのに私はなんで、今、この人の胸の中で泣いているんだろう……)

 ふと我に返ると、おかしな状況だし、やけに恥ずかしい。
 なんて言おう、なんて言えばいいんだ。

 そんなことを思っていると、琥白さんは、

「そういえばふたばって、昔泣き虫でさ、泣きながらピアノの練習をしてたよな」
と私同様、昔を思い出したように言った。

「なっ……! なんでそんなこと覚えてるんですか」

(覚えているにしても、もっとまともなこと覚えていてよ!)

< 79 / 232 >

この作品をシェア

pagetop