白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい
そうなのだ、私はそのピアノのコンクールで結局金賞を取った。そんなに大きなコンクールでないことも幸いしたのだが。
とにかく琥白さんが怖くて、いつも以上に毎日毎日、必死に練習したからだった。
(琥白さんも覚えていたんだ)
思わず口元が緩みそうになる。しかし……、と私は口元を引き締めた。
「……おかげでコンクール直後に熱出しましたよ」
「そうだった。あれは知恵熱だな」
琥白さんは楽しそうに笑う。琥白さんには年下の女の子をからかって楽しい思い出だっただろうけど、私はそうじゃなかった。
これが、『いじめっ子』と『いじめられっ子』の見解の違いと言うやつだろうか。
琥白さんって、悪い男だ。
それに……。
「なんで今、そんな話するんですか……?」
琥白さんは今まで昔の話なんて一度もしなかった。
だから私は琥白さんは昔の事なんてすっかり忘れていると思っていたのだ。