おとぎ話を信じる年齢なんてとっくに過ぎました!~OLシンデレラと大人王子~
あっという間に2週間。短いようで長い日々が過ぎ去って、今日はやっと章介が帰ってくる日である。片付けを始めた日から、彼とは毎日連絡をとって状況を報告してあったので今は彼の手配してくれた引っ越し業者が来るのを待つばかりだ。そして携帯が鳴った。
「もしもし、千秋さん?僕です。今日本に着きました。これから真っすぐ千秋さんの家へ向かいますが、大丈夫ですか?」
彼の声の後ろから聞こえてくる喧騒は彼が空港内を歩いていることを連想させる。本当に直ぐ連絡してくれたのだろうと嬉しくなって彼女は「大丈夫です。」と返事をした。
「良かった、こんなに長く感じる出張は初めてでしたよ――落ち着いたら詳しく話しますから、……今は早く僕のシンデレラに会いたい。」
「私も王子様を待ってますから、早く会いに来て……。でも道中気を付けてくださいね!」
そう言って電話を切った。会えるのが待ち遠しくて何となくソワソワしてしまう。この部屋もすっかり片付いて段ボールだらけだ。汚部屋状態だったこの部屋を彼が戻ってくるまでに片付け終えられたのは間違いなくフェアリーゴッドマザーのお陰だろう。しかし、「ゆめいっぱい!シンディーズ♡」のBOXを見つけられてしまったときは本当に焦った。しかし真智は心が広いのか、何も言わずに段ボールへ仕舞ってくれたのだ。流石に女児向けアニメのファンだということは彼にも隠しておかなければならないだろう。そういえば彼と出会うまでは趣味と言えばそればかりだったなと思い出してしまう。化粧やファッションに全く興味がなく、恋愛とも無縁。することと言えば繰り返しそれを見ることだったのだから、本当に変わったものだ。とりあえず暫く段ボールは開けないものに印をつけておこうと、ペンを取り出してバツ印をつけていく。いくつか付け終えたところで、チャイムがなった。
「はーい。」
扉を開けた途端に入って来た章介に抱きしめられた。久々に感じる温もりに心も温まる。優しいコロンの香りがして、懐かしさすら覚えてしまった。腕を回し、抱きしめ返しては少しの間そうしてから身を離す。
「お迎えに上がりました、僕のシンデレラさん。」
「お待ちしていました、私の王子様。」
いつもの気障が炸裂したので同じノリを返し笑い合う。やっと会えた、そしてこれから彼との新生活が始まるのだ。
「良いお知らせがあります。暫く出張はなさそうです、少し企んだんですが上手くいったんですよ。」
「そうなんですか!じゃあ一緒に居られますね。」
「おーい、そこのお熱い二人。中に入ったらどうなの?」
後ろでずっと待っていたらしい真智が声を発したので、章介も流石に驚いた様子である。そういえば引っ越し業者が先に来たときのために呼んでいたのだったと思い出して、千秋は手を合わせ「ごめんね。」のポーズを取った。
「千秋さんのお友達ですか?」
「はい、そういえば章介さんに紹介するのは初めてでしたね。彼女が色々応援してくれたお陰で私は貴方と、その……結婚することに。」
響きに慣れず、ついどもってしまう様子に章介も真智も顔を見合わせて笑っている。先に行動を起こしたのは章介だ。
「初めまして、千秋さんの婚約者の松比良章介です。宜しく。」
「話は色々と千秋から聞いてますよ、松比良さん。私は大沢真智、宜しくお願いしますね~。」
軽く握手を交わした二人に部屋に入ってもらって、辛うじて備え付けとして残っていたソファへ腰かけてもらう。なんだかこの三人で揃うのは不思議な感じがするが、それもまた面白いので良いことにする。
「松比良さんは確か、ロンドンとパリへ出張に行ってたんですよね?」
「そうです。ああ、そうだ――良かったらこれをどうぞ。日本でも入手できますが、パッケージが違って面白いかと思いまして。」
章介が真智へと、ウエッジウッドの紅茶セットを差し出した。
「ありがとうございます。なんだか、本当に聞いてた通りだなあ。」
「聞いてた通り?千秋さん、何を言ったんです?」
何かまずいことがあるわけでもないのに、何故か少し眉を寄せている彼が面白くて千秋は少し身を寄せ彼を見上げた。
「気障なイケメンで、私の王子様って。」
「ああ、……これはお恥ずかしい。」
一部始終を見ていた真智が微笑ましげにして頷いている。どうやら友人チェックは終了し、章介はそのお眼鏡に適ったらしい。それから談笑していると引っ越し業者がやってきて、段ボール類が片付けられていく。先に帰った真智と相まって、すっかり殺風景になった部屋に寂しさを覚える千秋だが、これは新生活への第一歩なのである。その部屋に別れを告げて、章介のスポーツカーで彼の家へと向かった。待っていれば引っ越し業者も到着するだろう。
「んー、章介さんの匂いがする。」
彼の部屋に入った途端にそう言った千秋は嬉しそうにそう呟いた。聞いた章介は加齢臭を一瞬疑ったようだが、そういうわけではなさそうだと内心安堵している。幸せ感満載の二人は一緒にソファへ腰を下ろした。
「そういえば、さっき暫く出張がないと言ってましたけど、大丈夫なんですか?」
千秋が思い出したように問いかけた。章介が手持ち無沙汰だった手を握ってくるので握り返すと、家に居るのにデートのようで幸せだ。
「僕、輸入雑貨の仕事をしていることは言いましたよね?実はその会社、僕が経営しているんです。それで、無理やり日本でのプロジェクトを立ち上げて帰って来たんですよ。そのためにはどうしても出張が必要で。」
「――、無理したんじゃないですか……?」
心配げに問いかける彼女の頭を章介は柔らかに撫でた。大丈夫、とでも言いたげに微笑みかけてくる辺りが流石といったところだろう。
「問題ありません、僕がそうしたかったんです。鐘が鳴ったら貴女が消えてしまいそうで、まあそうなっても探し出すんですけどね。」
ふふ、と笑いながら冗談を言う彼も楽しげにしているので千秋もまた安堵する。しかし、会社を経営、ということは社長さん?と疑問が浮かんで質問を投げかける。
「ええ、僕は二代目でしてね。父の会社を継いでから三年ぐらいになります。言ったら貴女は気負って会ってくれなくなりそうだったので止めました。」
確かに、出会ったばかりの頃ならば自分に自信がなさ過ぎて会うことをやめていただろうことが容易に想像出来て素直に頷いた。だからこその贈り物とあの車なのだろう。先程、駐車したガレージに他にも二台ほど似たような車が停められていたのでアレも彼の所有しているものなのだろうか。
業者が段ボールを持ってきて、引っ越しは終了。本格的な同棲生活の始まりだ。荷ほどきは印をつけなかったもの且つ使うものだけ取り出して与えられた部屋にしまった。流石に彼の部屋を汚部屋状態にするわけにはいかない。ノックに返事をすると章介が扉からちらっと顔を出した。
「片付けは進みましたか?夕飯を作ったので休憩がてら食べましょう。」
相変わらず生活感のない、よく片付けられた部屋だと感じる。彼曰く神経質なだけ、らしいが千秋にしてみれば潔癖症だ。自分が居ることは問題ないのだろうか?帰ってきてすぐに足を洗えと言われたりすることはないにせよ、彼はよく掃除機をかけたりしているし当然のようにお掃除ロボットが数台稼働して常に綺麗にされている。しかし今は食事だろう、ダイニングテーブルへつくとトマトのファルシー、ビシソワーズなど店で食べるような料理が並んでいた。流石は料理男子、丁寧に盛り付けられたそれは本当に美味しそうで食べるのが勿体ないぐらいである。
「これは?」
「ああ、在り合わせのもので作ったんですが好みを聞けば良かったですね。」
「章介さんが作ったんですか?てっきりお店のデリバリーかと。作ってもらえるだけで嬉しいです!今度は私にも手伝わせてくださいね。」
「どうか気にしないでください、料理も他の家事も僕の趣味みたいなものですから千秋さんは居てくれるだけで良いんです。」
その言葉通り、数日生活を共にする間に家事一切は全て章介の担当となり、千秋がすることと言えば自分の下着を洗濯することぐらいだった。初めはそれも、とのことだったが流石にそこの恥じらいの持ち合わせはある。つまり、簡潔に言うと「快適過ぎる。」ということだった。甘えきりになってしまうのが申し訳なくなってくるが、それを伝えても何もしなくていいと言ってくれるので有難いことである。
「もしもし、千秋さん?僕です。今日本に着きました。これから真っすぐ千秋さんの家へ向かいますが、大丈夫ですか?」
彼の声の後ろから聞こえてくる喧騒は彼が空港内を歩いていることを連想させる。本当に直ぐ連絡してくれたのだろうと嬉しくなって彼女は「大丈夫です。」と返事をした。
「良かった、こんなに長く感じる出張は初めてでしたよ――落ち着いたら詳しく話しますから、……今は早く僕のシンデレラに会いたい。」
「私も王子様を待ってますから、早く会いに来て……。でも道中気を付けてくださいね!」
そう言って電話を切った。会えるのが待ち遠しくて何となくソワソワしてしまう。この部屋もすっかり片付いて段ボールだらけだ。汚部屋状態だったこの部屋を彼が戻ってくるまでに片付け終えられたのは間違いなくフェアリーゴッドマザーのお陰だろう。しかし、「ゆめいっぱい!シンディーズ♡」のBOXを見つけられてしまったときは本当に焦った。しかし真智は心が広いのか、何も言わずに段ボールへ仕舞ってくれたのだ。流石に女児向けアニメのファンだということは彼にも隠しておかなければならないだろう。そういえば彼と出会うまでは趣味と言えばそればかりだったなと思い出してしまう。化粧やファッションに全く興味がなく、恋愛とも無縁。することと言えば繰り返しそれを見ることだったのだから、本当に変わったものだ。とりあえず暫く段ボールは開けないものに印をつけておこうと、ペンを取り出してバツ印をつけていく。いくつか付け終えたところで、チャイムがなった。
「はーい。」
扉を開けた途端に入って来た章介に抱きしめられた。久々に感じる温もりに心も温まる。優しいコロンの香りがして、懐かしさすら覚えてしまった。腕を回し、抱きしめ返しては少しの間そうしてから身を離す。
「お迎えに上がりました、僕のシンデレラさん。」
「お待ちしていました、私の王子様。」
いつもの気障が炸裂したので同じノリを返し笑い合う。やっと会えた、そしてこれから彼との新生活が始まるのだ。
「良いお知らせがあります。暫く出張はなさそうです、少し企んだんですが上手くいったんですよ。」
「そうなんですか!じゃあ一緒に居られますね。」
「おーい、そこのお熱い二人。中に入ったらどうなの?」
後ろでずっと待っていたらしい真智が声を発したので、章介も流石に驚いた様子である。そういえば引っ越し業者が先に来たときのために呼んでいたのだったと思い出して、千秋は手を合わせ「ごめんね。」のポーズを取った。
「千秋さんのお友達ですか?」
「はい、そういえば章介さんに紹介するのは初めてでしたね。彼女が色々応援してくれたお陰で私は貴方と、その……結婚することに。」
響きに慣れず、ついどもってしまう様子に章介も真智も顔を見合わせて笑っている。先に行動を起こしたのは章介だ。
「初めまして、千秋さんの婚約者の松比良章介です。宜しく。」
「話は色々と千秋から聞いてますよ、松比良さん。私は大沢真智、宜しくお願いしますね~。」
軽く握手を交わした二人に部屋に入ってもらって、辛うじて備え付けとして残っていたソファへ腰かけてもらう。なんだかこの三人で揃うのは不思議な感じがするが、それもまた面白いので良いことにする。
「松比良さんは確か、ロンドンとパリへ出張に行ってたんですよね?」
「そうです。ああ、そうだ――良かったらこれをどうぞ。日本でも入手できますが、パッケージが違って面白いかと思いまして。」
章介が真智へと、ウエッジウッドの紅茶セットを差し出した。
「ありがとうございます。なんだか、本当に聞いてた通りだなあ。」
「聞いてた通り?千秋さん、何を言ったんです?」
何かまずいことがあるわけでもないのに、何故か少し眉を寄せている彼が面白くて千秋は少し身を寄せ彼を見上げた。
「気障なイケメンで、私の王子様って。」
「ああ、……これはお恥ずかしい。」
一部始終を見ていた真智が微笑ましげにして頷いている。どうやら友人チェックは終了し、章介はそのお眼鏡に適ったらしい。それから談笑していると引っ越し業者がやってきて、段ボール類が片付けられていく。先に帰った真智と相まって、すっかり殺風景になった部屋に寂しさを覚える千秋だが、これは新生活への第一歩なのである。その部屋に別れを告げて、章介のスポーツカーで彼の家へと向かった。待っていれば引っ越し業者も到着するだろう。
「んー、章介さんの匂いがする。」
彼の部屋に入った途端にそう言った千秋は嬉しそうにそう呟いた。聞いた章介は加齢臭を一瞬疑ったようだが、そういうわけではなさそうだと内心安堵している。幸せ感満載の二人は一緒にソファへ腰を下ろした。
「そういえば、さっき暫く出張がないと言ってましたけど、大丈夫なんですか?」
千秋が思い出したように問いかけた。章介が手持ち無沙汰だった手を握ってくるので握り返すと、家に居るのにデートのようで幸せだ。
「僕、輸入雑貨の仕事をしていることは言いましたよね?実はその会社、僕が経営しているんです。それで、無理やり日本でのプロジェクトを立ち上げて帰って来たんですよ。そのためにはどうしても出張が必要で。」
「――、無理したんじゃないですか……?」
心配げに問いかける彼女の頭を章介は柔らかに撫でた。大丈夫、とでも言いたげに微笑みかけてくる辺りが流石といったところだろう。
「問題ありません、僕がそうしたかったんです。鐘が鳴ったら貴女が消えてしまいそうで、まあそうなっても探し出すんですけどね。」
ふふ、と笑いながら冗談を言う彼も楽しげにしているので千秋もまた安堵する。しかし、会社を経営、ということは社長さん?と疑問が浮かんで質問を投げかける。
「ええ、僕は二代目でしてね。父の会社を継いでから三年ぐらいになります。言ったら貴女は気負って会ってくれなくなりそうだったので止めました。」
確かに、出会ったばかりの頃ならば自分に自信がなさ過ぎて会うことをやめていただろうことが容易に想像出来て素直に頷いた。だからこその贈り物とあの車なのだろう。先程、駐車したガレージに他にも二台ほど似たような車が停められていたのでアレも彼の所有しているものなのだろうか。
業者が段ボールを持ってきて、引っ越しは終了。本格的な同棲生活の始まりだ。荷ほどきは印をつけなかったもの且つ使うものだけ取り出して与えられた部屋にしまった。流石に彼の部屋を汚部屋状態にするわけにはいかない。ノックに返事をすると章介が扉からちらっと顔を出した。
「片付けは進みましたか?夕飯を作ったので休憩がてら食べましょう。」
相変わらず生活感のない、よく片付けられた部屋だと感じる。彼曰く神経質なだけ、らしいが千秋にしてみれば潔癖症だ。自分が居ることは問題ないのだろうか?帰ってきてすぐに足を洗えと言われたりすることはないにせよ、彼はよく掃除機をかけたりしているし当然のようにお掃除ロボットが数台稼働して常に綺麗にされている。しかし今は食事だろう、ダイニングテーブルへつくとトマトのファルシー、ビシソワーズなど店で食べるような料理が並んでいた。流石は料理男子、丁寧に盛り付けられたそれは本当に美味しそうで食べるのが勿体ないぐらいである。
「これは?」
「ああ、在り合わせのもので作ったんですが好みを聞けば良かったですね。」
「章介さんが作ったんですか?てっきりお店のデリバリーかと。作ってもらえるだけで嬉しいです!今度は私にも手伝わせてくださいね。」
「どうか気にしないでください、料理も他の家事も僕の趣味みたいなものですから千秋さんは居てくれるだけで良いんです。」
その言葉通り、数日生活を共にする間に家事一切は全て章介の担当となり、千秋がすることと言えば自分の下着を洗濯することぐらいだった。初めはそれも、とのことだったが流石にそこの恥じらいの持ち合わせはある。つまり、簡潔に言うと「快適過ぎる。」ということだった。甘えきりになってしまうのが申し訳なくなってくるが、それを伝えても何もしなくていいと言ってくれるので有難いことである。