おとぎ話を信じる年齢なんてとっくに過ぎました!~OLシンデレラと大人王子~
「おかえりなさい、千秋さん。遅かったですね、真智さんとお出かけ?」
何も知らない章介は作り終えた料理を並べながら、にこやかに千秋へ問いかけた。しかし、いくら待っても俯いたまま返事をしない彼女を不思議に思って側へ歩み寄る。
「――体裁のため、ってなんですか。」
やっと彼女の口から出た言葉はそれだった。
「……何を聞いたの?千秋さん。」
「そんなのどうでも良いじゃないですか。体裁のために私と結婚するんですか?王子様だって信じてたのに!」
口をついて出た言葉は元に戻すことは出来ない。ぼろぼろと涙ばかりが零れて、何を叫んだかさえ思い出せない。一方の章介はそんな彼女を抱きしめるか諫めるかで迷って、結局落ち着かなければ話もままならないだろうと、ひとつ溜息をついた。こういった言い合いは苦手な上に、事勿れ主義が顔を出してしまう。
「――ひとまず落ち着いて話せるようになったら教えてください、僕は書斎に居ますから。」
彼は作った料理の一皿を持って本当に書斎に行ってしまった。すぐに説明をしてくれると思っていたのに、と彼女は思ったが食事をする気にも、風呂に入る気にもなれず、そのまま自室へ籠ることにして泣きながらとぼとぼと歩いていく。自分は本当に此処に居て良いのだろうか、この結婚は正解なのか、そもそも運命とは?おとぎ話なんてなかったじゃないか。そんな考えばかりがぐるぐると巡っていくら止めようにも止まらない。いっそのこと不貞寝してやろうと、自室のソファへ横になる。目を閉じても浮かんでくるのは、面倒そうに溜息をついた章介と先程の社員の会話、そして先程の考えばかりだ。
何時間そうしていたか、眠るどころか目は冴えるばかりでどうしてもいけない。結局空も白んで来てしまい、どうしようもなかった。これは一度彼と離れてみるべきかもしれない、と彼女は小さなボストンバッグに服をいくつか詰めた。
リビングへ出ると、ダイニングには昨夜の夕食にラップがかけられて置かれていた。何となく心苦しいが、今部屋を出なければ意味がない。小さなメモに「実家に帰ります。」と残して、千秋は家を出た。
久々の実家だ、どうせなら何かお土産をと彼女は連の店へ寄っていた。
「ずっと泣いてたでしょう、その恰好だと話は出来なかったのかな。」
「うん、出来なかった……溜息までつかれちゃって。」
「じゃあ、一度離れてみるのは正解かもしれないね。これ、お菓子の他にもうひとつバゲットを持っていって。こっちは俺からのプレゼント、少し元気にならないとね。」
連は少し考えてから頭を撫でてくれる。自分の方が年上のはずなのにお兄ちゃんでも出来たかのような感覚だ。「ありがとう。」と礼を言って店を出た。まずは駅に向かわなければならない。
何も知らない章介は作り終えた料理を並べながら、にこやかに千秋へ問いかけた。しかし、いくら待っても俯いたまま返事をしない彼女を不思議に思って側へ歩み寄る。
「――体裁のため、ってなんですか。」
やっと彼女の口から出た言葉はそれだった。
「……何を聞いたの?千秋さん。」
「そんなのどうでも良いじゃないですか。体裁のために私と結婚するんですか?王子様だって信じてたのに!」
口をついて出た言葉は元に戻すことは出来ない。ぼろぼろと涙ばかりが零れて、何を叫んだかさえ思い出せない。一方の章介はそんな彼女を抱きしめるか諫めるかで迷って、結局落ち着かなければ話もままならないだろうと、ひとつ溜息をついた。こういった言い合いは苦手な上に、事勿れ主義が顔を出してしまう。
「――ひとまず落ち着いて話せるようになったら教えてください、僕は書斎に居ますから。」
彼は作った料理の一皿を持って本当に書斎に行ってしまった。すぐに説明をしてくれると思っていたのに、と彼女は思ったが食事をする気にも、風呂に入る気にもなれず、そのまま自室へ籠ることにして泣きながらとぼとぼと歩いていく。自分は本当に此処に居て良いのだろうか、この結婚は正解なのか、そもそも運命とは?おとぎ話なんてなかったじゃないか。そんな考えばかりがぐるぐると巡っていくら止めようにも止まらない。いっそのこと不貞寝してやろうと、自室のソファへ横になる。目を閉じても浮かんでくるのは、面倒そうに溜息をついた章介と先程の社員の会話、そして先程の考えばかりだ。
何時間そうしていたか、眠るどころか目は冴えるばかりでどうしてもいけない。結局空も白んで来てしまい、どうしようもなかった。これは一度彼と離れてみるべきかもしれない、と彼女は小さなボストンバッグに服をいくつか詰めた。
リビングへ出ると、ダイニングには昨夜の夕食にラップがかけられて置かれていた。何となく心苦しいが、今部屋を出なければ意味がない。小さなメモに「実家に帰ります。」と残して、千秋は家を出た。
久々の実家だ、どうせなら何かお土産をと彼女は連の店へ寄っていた。
「ずっと泣いてたでしょう、その恰好だと話は出来なかったのかな。」
「うん、出来なかった……溜息までつかれちゃって。」
「じゃあ、一度離れてみるのは正解かもしれないね。これ、お菓子の他にもうひとつバゲットを持っていって。こっちは俺からのプレゼント、少し元気にならないとね。」
連は少し考えてから頭を撫でてくれる。自分の方が年上のはずなのにお兄ちゃんでも出来たかのような感覚だ。「ありがとう。」と礼を言って店を出た。まずは駅に向かわなければならない。