Extra Fight集 〜年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません〜
選んだのは、この店で1番高いもの。
期間限定のコース料理で、ネットで情報を見た時に実物を拝みたいと思っていたドンピシャのものだった。
もちろん、加藤さんにそのことは伝えていない。

「か、加藤さん、さすがにそれは……」
「他に選択肢があるの?」

さも当然、と言った自信満々な表情。
鬼の加藤がちらと顔を覗かせた。

「いや、確かに今1番激アツなコースですが、値段が……」

すでに注文してしまったので、今更感満載ではあるが、今後のために一応釘さしておく。

「ここのレストラン、ランドの中でも高いですし、この金額をランチで使うのは躊躇われるというか……」

私がそこまで言うと、加藤さんの目が怖くなった。
あ。これ、加藤さんの機嫌が一気に下がる時の特徴だ。
そう分かるくらいには、加藤さんと一緒にいる時間は、長い。

「まさかと思うけど……」
「え?」
「君、ここの料金を僕が君に払わせると思ってたの?」
「え、え?」

当たらずとも、遠からず。
払おうとするかも……とは予測はあったけれど、できればランドデート中……極力、自分のものは自分で払いたかった。
早速耳カチューシャは、加藤さんにあっという間に買われてしまったのだが……。

というのも。
加藤さんはホテルの代金を支払うことになる。
これが、どれだけ大きな出費かということは、加藤さんよりもむしろ私の方がよく知っている。
下手したら加藤さん、ホテルの料金を全く見ずに予約した疑惑すらある。
普通に、この人はそういうことを……してしまうのだ。

これは、不安になってしまう。
もし、私と付き合うことで、お金がかかると加藤さんが思ってしまったら。
コストがかかると思われてしまったとしたら。
加藤さんは……仕事はできる人だ。
プレイヤー時代に常にトップでいられたのも、彼の中にあるコスト計算の土台があったから。

かつて、ただの上司部下の関係であったならば、全くと言って良いほど気にならなかった。
自分が、彼にとって負債になる可能性。
しかも私は、何歳も年上。
この人が甘やかしてくれる時は、忘れそうになるが……。

だからこそ、できる限りは自立した姿を見せたい。
その上で、負債だと思われる確率を、極力下げていきたいと思っているのだ。
その1つが、デート費用を極力割り勘にすることだと、私は思っている。
なので……。

「と、当然じゃないですか!」

そう言った時だった。
鬼の加藤が、般若加藤に変わった。
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