能力を失った聖女は用済みですか?prequel

聖獣と私

私は諸岡ルナ。
大学生だったけど、ある日突然聖女として異世界に召喚された一般人である。
こんな地味目の日本人が、この世界に来てみれば髪は紫、瞳も紫。
カラーリングもカラコンもしない私には驚きの連続だ。
そして、驚くことはまだあった。
私がこちらの世界に来たとき、時間差で生まれたある生き物。
それは「聖獣」といって聖女の守護として必ず現れるのだそうだ。
大きな白い虎の姿をした「聖獣」は名をディアーハといい、美しい翼を持っていた。
ロラン建国時からの歴史を見ても、翼を持つ聖獣はおらず、初めて顕現したディアーハに王や王子、神官たちも更なる繁栄を信じて疑わなかった。

そんな、貴重な聖獣ディアーハの声はなぜか私にしか聞こえない。
体が大きく力も強い彼は、私以外の人間の側には絶対に近付かず、また、どんな時も私の側を離れなかった。
聖獣のその堂々たる姿に恐れをなす者は多かった。
だけど、実のところ、彼は中身と見た目が少し違っていたのである。

「ルナ、もう少し右だ」

「うん、右ね。はいはい……どう?」

「うぉうっ!そこそこ!もう少し力を入れてもいいぜ?」

「注文多いなぁ。ま、いいけど」

私は指先に圧をかけ、ディアーハの顎下をワシャワシャと掻いた。
ディアーハはコロンと仰向けになり、無防備にお腹を見せ、気持ち良さそうにゴロゴロ唸っている。
聖獣であり白虎のような厳つい姿をしていても「ネコ科」の本能はあるらしい。
今彼は、どうみても大型のネコである。
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