一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 だから私は優しく包み込まれるような生活を送っているだけで、また彼を好きになってしまう。

 気持ちを受け入れてしまえという声は私の中で何度もささやいたが、再び恋を始めれば終わりが来ると思うだけで想いが引っ込んだ。

「お前はもう橘杏香だろう? 充分、俺の妻だ」

 深冬は私の髪から手を離すと、代わりに頬をつついた。

 驚いて身を引こうとするも、それよりも早く腕を掴まれる。

「触らないって約束したよ。一か月前のこと、忘れちゃった?」

「あの夜だけの約束だろう? 結婚した今は無効のはずだ」

 髪に絡めていた時よりもずっと愛おしげに指を触られて鼓動が速くなる。

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