一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 拒み切れないのは彼を想う気持ちがあるからだ。

 本来あったはずの十年分の触れ合いを求めているのは深冬だけではない。

「こんなふうに触れていると大学時代を思い出すな。授業中に机の下でよくお前の手を握った」

 懐かしさが込み上げて、切なさの代わりに笑みがこぼれる。

「恥ずかしいって何回も言ったのにやめてくれなかったよね」

「そう言うくせに手を離さないところがかわいかったな」

 深冬の手はあの頃よりも硬く骨張った気がする。

 顔つきや雰囲気だけでなく、こんな小さなところでも過去との差を見つけてしまった。

「初めて話した日のことを覚えているか?」

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