一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 彼といる時間にはとっくに慣れたと思っていたのに、鼓動が徐々に速くなっていく。

「あなたのことは好きだけど……昔のような恋愛はできないよ」

「ああ」

 再三繰り返している言葉を彼はどこまで本気で聞いているのだろう。

「だが、それがどうしたんだ。俺が杏香を愛しているという気持ちには関係ない」

 一方的な片思いになるのだから関係ないはずがないのに、彼は自分の想いを刻むように私へキスを落とした。

 やわらかな唇の感触が私の心を震わせて、また弱くする。

「やめて、深冬」

「だったらどうして俺から逃げない?」

 逃げられないからだ。

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