一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 胸が張り裂けてしまいそうなほど深冬が好きだ。

 だけど私は一瞬だけでも彼と幸せな時間を過ごすより、自分が傷付かずに済む彼のいない時間を選ぶ。いつまでも彼が愛してくれるという絶対の確信を持てないから。

『あんたみたいなつまらない子を好きになる人なんているのかね』

 今は聞こえないはずの母の声が頭をよぎった。

 彼が抱いている以上の愛を抱いているから、失った時は十年前よりも傷付くことになる。

 なにも恐れずに彼の側にいられたあの頃が懐かしく、恨めしい。

 未来を考えるようになったのは年齢のせいだ。十九歳の私のように今だけを見つめて眩しい恋愛ができたら本当によかった。

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