一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 彼はやはりにこやかに言ったが、会話の内容が問題だった。

 私が義理の妹だとするなら、智秋と呼ばれたその人は――深冬の兄しかありえない。

 気付いた瞬間、以前見た〝橘兄弟〟の写真が頭に浮かんだ。

 深冬の隣にいた愛想のいい笑顔の爽やかで甘いマスクの男性。ぼんやりとしか覚えていなかったが、こうして目の前にいると写真の男性と一致することがわかる。

「あなたが橘智秋さんですか?」

 本当に深冬の兄なら、彼は京都からわざわざ都内までやってきたことになる。

「そ。挨拶が遅くなってごめんね、杏香ちゃん。うちもなかなか忙しくてさ」

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