一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 しかしそれを深冬本人に聞く前に咲良さんが話しかけてくる。

「ほっとするよね。立派なご家庭だし、ご両親からもっと厳しくされるんだろうなって私も思ってたの」

 彼女の膝の上にちょこんと座った楓花ちゃんが、しらすあんのかかった豆腐を食べている。

「結婚する時も楓花を生むときも本当によくしてもらって。だから杏香さんも安心して大丈夫だよ」

「……うん。そうみたいだね」

 私の両親はたとえ家族であってもこんなに親しみのある会話をしなかった。

 覚えているのは勉強の話と将来の話ばかり。そして期待に応えない私に対する失望の表情と、冷たく悲しい言葉の数々だ。

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