一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
「咲良さん……はふーちゃんがいるから酒はだめか。杏香さん、日本酒はいけるかい?」

「あ、はい。大丈夫です」

 お猪口を差し出した私を見て、深冬が義父を咎める。

「杏香にあまり飲ませるなよ。温泉を楽しみにしていたんだからな」

「なに、ひと口だけひと口だけ。……っと、危ない。こぼすところだった」

「ありがとうございます。いただきますね」

 義父が注いでくれた日本酒はまろやかで甘い。

 おいしい料理と酒と、こんなにも楽しい時間なのに胸が痛かった。





 部屋に戻った私は、複雑に乱れる気持ちを落ち着かせたくて部屋に備え付けられたタオルを手に取った。

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