一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 初めてふたりで迎えた夜と同じように胸を高鳴らせ、私は彼の待つ浴室へと向かった。



 個室に備え付けられたものだと言うから、いくら部屋が豪華でも小さいものだと思っていた。

 しかし私が見たのは、たったふたりだけで独占していいのかと不安になるぐらい広く立派な露天風呂だった。

 りいりいと虫の鳴き声が月明かりの下で聞こえる中、ヒノキの桶でお湯をすくって身体を流す。

 タオルを身体に巻き付けたまま温泉に入ると、距離を空けていたにもかかわらず深冬が近寄った。

「きれいだ」

 彼が私のなにを見てそんなにも恍惚とした声を漏らしたのかはわからない。

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