一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 深冬も言っていたではないか。私は彼にしか恋をできないのだと。

 だから愛していると甘やかしてくれるあの腕に包まれる人生を選べばいい。深冬もそれを望んでいるし、私だって心の奥底では願っている。

 しかしあんなにも愛してくれる人が再び私を捨てて去るはずがないと思いながらも、最後の一歩が踏み出せない。

「そんなにトラウマだったんだ」

 窓ガラスの外にひらりと舞い落ちた葉を目で追いながらつぶやく。

 ネガティブな未来ばかり思い描き、不幸を信じる自分が嫌いだ。

 もう一度深冬と恋をしたい。今はそればかり考える。

「……杏香?」

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