一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 肩で切り揃えた私の淡いこげ茶の髪も彼の少し長い黒髪も、雪のせいでしっとりと水を含んでいる。

 ちらと盗み見た彼は水も滴るいい男とはこういう意味かと私に思わせた。

 橘(たちばな)深冬(みふゆ)は百八十を超える長身にすらりと長い手足の、いわゆるイケメンだ。顔は小さく、目鼻立ちがはっきりしている。切れ長の瞳は話しかけるのを一瞬躊躇するような鋭さがあるが、私に向けられる眼差しは優しく温かい。私と話すときだけ目尻が下がるのを、きっと彼本人も気付いていないだろう。

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