一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 カウンターに肘をついてにこやかに言ったのは、深冬の兄である智秋さんだった。

「お久し振りです。またこちらへ旅行ですか? それともお仕事で?」

「君に会いに来た」

 率直な言い方は深冬と血縁者なのだと思わせるなにかがある。

 ただ、彼が私に会いに来る理由が思い当たらない。

「深冬ではなく、ですか?」

「そう。というか、俺が来たことはあんまり深冬に知られたくない」

 ますますよくわからない話だ。

 内心首を傾げていると、智秋さんはさらに続けた。

「君のせいで深冬が怪我をしたんだってね」
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