一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 そして、私にひと言も告げず大学を辞めたという事実だった。

「……冬だからあの頃の夢を見たのかな」

 冷たい窓ガラスに手を押し当てて息を吐くと、ほうっと白い曇りが外の景色を濁らせた。

 十年前より疲れた顔の、年を経た女の顔が映っている。

 大学生の頃よりも落ち着きのある茶で染めた髪は肩にふんわりとかかり、端に少し寝ぐせが付いていた。

 寝起きだからか目はまだどこか眠そうで、せっかくの二重が台無しだ。

 かつて何度もかわいいとささやかれた顔だが、自分でそう思ったことは一度もない。

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