一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 あるいは御曹司の付き合う相手としてふさわしくないと判断したのかもしれない。

 首を左右に振って冷え切った窓辺の空気から逃げるようにキッチンへ向かう。

 冷蔵庫から取り出したアイスコーヒーをグラスに注ぎ、酸味の強い苦みによって脳の更なる覚醒を促した。

「今更考えたって」

 そう、あれはもう十年も前の話なのだ。

 冬が近付くたびに彼を思い出し、クリスマスを寂しい気持ちで迎える。とっくに慣れたと思っていたのに、たった一回の夢で気持ちをあの夜に引き戻された。

 深冬がなんの説明もなくいなくなった理由など考えても仕方がない。彼を失った私が真実を知る日は永遠に来ないのだろう。

< 26 / 261 >

この作品をシェア

pagetop