一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 深冬に捨てられた過去は私を十年間恋愛から遠ざけた。親にはせっつかれているけれど結婚に対して前向きな感情を抱けないし、なにより初めての恋人だった彼以上に愛せる人がいるとは思えない。

 その彼に対しても今は凪いだ海に似た穏やかな想いがあるだけだ。傷跡をかさぶたが覆い、過去を懐かしみはしてもあの頃のように強く痛むことはない。

「で、それが心配でモーニングコールですか?」

『まあね。僕が阿澄さんの出社を待ちきれなくて電話しちゃったっていうのも大きいけど!』

 目の前に彼がいなくてもわくわくした様子が浮かんで自然と口もとがほころぶ。

『さっそく即戦力として頑張ってもらうからよろしく!』

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