一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 部屋の温度を二十七度に設定した深冬がコートを脱いで側のハンガーにかける。私はというと、脱ぎ捨てたものをそのまま椅子の背にかけてしまっていた。気付かれる前に慌ててハンガーを手に取ろうとする。だけどその前に彼が私へ手を差し出した。

「杏香(きょうか)、コート」

「ありがと」

 こういうときに彼は育ちがいいのだろうなと思う。ご両親の教育の賜物に違いない。

 いや、そう思いたいだけかもしれないが。性格によるものだとしたら、なんだかとても切ない気持ちになる。もう少し自分の無精を直そうと心に誓った。

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