一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 きっと彼はこれをあの夜に、いやふたりで幸せをわかち合って目覚めた朝に伝えるつもりだったのだろうと、なぜかそんな気がした。

 どうしようもなく彼を抱き締めたくなって手を伸ばしかけ、結局触れずに引っ込める。

 彼の想いがうれしくて受け入れたいと強く思うのに、私の心はストップをかけていた。

 再会してあふれ出た想いは過去も今も橘深冬を愛していると叫んでいる。

 踏み出せば彼は受け入れてくれるし、喜んでくれるとわかっていてもあと一歩が怖い。

 失うくらいなら望まない方がいい。ましてや彼は私と違う世界に生きる人だ。

 そう考えてから、どうして彼が御曹司だと隠していたのかを理解した。

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