一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 彼の手が私を離れて自身の胸に押し当てられた。

 真剣な表情とその仕草が、気持ちがあのままであると教えてくれる。

「あなたを疑ってるわけじゃないけど、怖いの。もし心変わりしたら? 途中でほかの人を好きになってしまったら? あの頃の想いを信じて踏み出せるほど、もう私は子供じゃない……」

 どうして十年前、離れ離れになってしまったのだろう。お互いに月日を重ねながらゆっくり成長し、変化も楽しんで今を迎えたかった。

「杏香――」

 なにか言いかけた深冬が私ではなくベッドの方へ顔を向けた。

 自分の思いを伝えるだけで精一杯になっていたためすぐには気付かなかったが、電話が鳴っている。

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