片恋
「うん。昔、まだナデシコが有名になる前に見つけたの。“フラワー”の動画は、今削除されちゃってるんだよね。だから、誰に言っても知らないって言われるから、伊月くんが聴いてて、ビックリしちゃった」

「すごいな。この曲知ってる奴に、初めて会った」

「私も! この曲以外も好きだし、ボーカルの声も綺麗で、歌い方も大好きなの。昨日、こっそりイヤホン借りちゃった時は、ナデシコがインディーズ時代に出したCDの曲だったし、びっくりした。伊月くんも買ったの?」

「ああ」

「そうなんだ。嬉しい。今まで、誰とも話せなかったから」


私の言葉に、伊月くんがニコッと微笑む。

ドキッと、心臓が跳ねた。

笑えるんだ。

笑うんだ、伊月くんでも。


いつもは無表情だから冷たい印象があったけど、そんな顔もするんだ。


「あれ、顔赤い?」

「! き、昨日の雨で、ちょっと」

額に伸ばされそうになった手を、サッとうつむいて、とっさに回避する。

「そっか、お大事に」


これ以上近いのは、……無理。

胸の音が、段々高鳴っていく。


両耳をイヤホンで塞いでいたら、こんな音も聞こえなかったかもしれないのに。

この片耳で聞いている音は、……誤魔化しが効かない。
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