片恋
ニコッと笑う顔がうさんくさく見えてしまって、私は黙って千円札を差し出した。


「足りる?」

「うわー、可愛くない」


延藤くんに可愛く思われなくても、別にいい。

そう思いながら、背を向けると、


「真桜ちゃん帰るなら、俺も帰ろ。かばん取ってくるから、待ってて」

「え、いいよ、そんなこと気を使わなくて……。あの人たち、延藤くんがいないとつまらないでしょ?」

「いや、俺が帰りたいだけ。カラオケ、そんなに好きじゃないんだよね」

「え……」


あんなに上手いのに?

そう言いかけたところで、延藤くんは部屋に戻っていった。


私と一緒に早々に帰ったなんて知られたら、さらに恨まれそうだなあ……。
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