片恋
「あのさ」


伊月くんが、イライラした様子で口を開く。


「真桜が嫌がってる。その手、離して」


苛立ちを隠そうともせず、伊月くんは延藤くんに簡潔に告げる。


「伊月くん……」


感動しつつも、今度は延藤くんが私に耳打ちをした。


「その態度で大丈夫? 俺ショックで、ナデシコの正体ポロッと言っちゃうかもなぁ」


……と。

何、この人!


怒りで震えそうになりながらも、伊月くんには無理してでも笑顔を見せる。


「だ、大丈夫、伊月くん。私もすぐに帰るから、先に行っててくれる?」
< 240 / 412 >

この作品をシェア

pagetop