片恋
「い、今井先生?」

「あら、蕪木さん。ごめんね、ぶつかっちゃって。ケガ、してない?」

「いえ、見てなかったのは私の方なので。ごめんなさい」


今井先生が落とした書類を、手分けして拾う。

これ、生徒の私が見ても大丈夫かな。

なるべく、内容に目をやらないようにしよう。


「ありがとう、手伝ってくれて」


書類を元通りに腕に抱えて、今井先生はフワッとやわらく笑う。

やっぱり、ナデシコの歌の時の伊月くんの声に似てる……。


「そうだ、蕪木さん、蓮とはどう? あの子、何も教えてくれないんだもん。さすがに、手くらいは繋いだ? なんて……」


伊月くんの実のお姉さんから、本人の話をされ、それが引き金になってしまった。


「えっ!? 蕪木さん、どうしたの!?」


今井先生が急に慌てたのは、私がポロポロと涙を流してしまったせい。
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