片恋
「伊月を好きなままの真桜ちゃんでいいから、……少しだけ、俺のことも見ていてほしい」


ぎゅっと強く握られた手は、簡単には振り解けそうにない。


「初めてなんだ。誰かひとりのために歌いたいって思ったのは」

「っ……」


私は口を開いて、だけど何を口にしていいのか分からず、そのまま口を閉じた。


「だから、俺のことをもっと知ってもらうために、日曜日デートしよ」

「…………、はい?」


真剣な雰囲気から一転。
突然の一方的な誘いに、マヌケな声が口をついて出た。


「今、『はい』って言ったよね。あさって駅で待ってるから」

「えっ!? 違……、そういう意味じゃ」

「それじゃ、俺帰るね」

「ちょっと待っ……、わっ、私、行かないからね!」


あんなにきつく握っていた手は、驚くほど簡単に離されて、
私の叫びを聞いているのかいないのか、延藤くんは手を振ってさっさと走っていってしまった。


「い、行かないよ! 本当に、行かないからね!」


念押しで叫んだ声はきっと、本人には届かなかった。
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