片恋
足音すら聞こえなかった。

延藤くんは、戸惑う私をよそに、目の前でニコニコ笑っている。

初めて見た延藤くんの私服は、とてもシンプル。

頭にはキャップ、無地のTシャツを重ね着して、黒い細身のパンツを履いている。


「来てくれてありがと。行こ、真桜ちゃん」

「えっ、ちょっと待って、私、断りに……」

「早くしないと、昼の営業時間終わっちゃうから」


私の話なんか聞く耳も持たず、延藤くんはグイグイと手を引いていく。
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