片恋
「延藤くん、あの……!」


覚悟を決めて、名前を呼ぶ。


「ん? なに? 真桜ちゃん」


延藤くんは、本当に優しくなった。

以前なら、こんな甘い声色で私を呼ぶなんて、考えられなかった。

きっと、この笑顔を、声を、向けて欲しい女の子はたくさんいるはずで……。


ただ私は、それが恋にはならない。


「あのね、放課後……少し時間あるかな?」


延藤くんから、笑顔が消える。

私の話の内容に、見当がついていたのだろう。


「……分かった。いいよ」


それでも、延藤くんはまた笑顔を見せてくれた。
< 365 / 412 >

この作品をシェア

pagetop